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自由探索の難易度(前半)【TRPGの難易度を解きほぐす(4)】

前回までの考察で、パラメータがバロメータとして利用される形式化探索の難易度を論じました。

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形式化探索の難易度は、目標値と属性と開示性という三つのパラメータの複合によって成立していました。また、プレイヤーは複数の行動候補から自分のキャラクターの行動を選ぶ「行動選択」を通じて複数の難易度を経験していることも論じました。

 

今回は、パラメータがバロメータとして利用されない、つまり情報源とその取得方法が開示されない探索の難易度について考察します。形式化探索に比べればいくらか計測は難しくなりますが、プレイヤーの推論能力を軸にすれば、一定の計測方法の仮説を設けることができるでしょう。

 

メニュー

1.自由探索の例とその難点

2.自由探索のパラメータ

3.推論による示唆性の例

(以下後半)

4.自由探索のバロメータ

5.行動経路による難易度の変化

6.行動経路による難易度の積算

 

1.自由探索の例とその難点

自由探索は大部分がプレイヤーの推論能力に依存しています。次の例を見てみましょう。

GM「洞窟を塞いでいた柵を取り外し、あなた達は奥に進んでいきます。人一人がやっと通れるくらいの洞窟の壁はひやりと冷たく湿っています。ふと、光の届かない奥の方から冷たい霧のようなものが吹き出します。まるで足を踏み入れた皆さんを拒んでいるかのようです」

PL1「ふむ…一応壁の状態を見ておきたいんだけど、地質学で判定できる?」

PL2「あ、霧の匂いとかは?」

GM「地質学いいですよ、目標値は13にしましょうか。霧の匂いは、そうだなぁ…いや、いちおうダイスで決めましょう。感覚判定で目標値は11で判定を」

ここで行われたのが典型的な自由探索です。

一般に、自由探索はゲームマスターの状況描写からプレイヤーが調査対象を想像し、技能などの行使判定を通じて成否を決定します。

 

その性質から、技能判定を行う対象に情報が用意されていない場合があります。この例では、洞窟の壁の材質をあらかじめ情報源にしておくゲームマスターもいれば、その用意のないゲームマスターもいることでしょう。

それゆえ、自由探索を円滑に遂行できる難易度に設定するためには、プレイヤーの推論を方向づける「行動」が難易度を左右します。

 

 

2.自由探索のパラメータ

自由探索で用いられるパラメータも、基本は形式化探索と変わりません。これはプレイヤーとゲームマスターの可能な「行動」の種類が同じだからです。

(1)目標値

形式化探索と同じく、それぞれの情報を得るために必要な探索達成値を設けることができます。ルールに従ってダイスを用いて達成値を算出し、これを目標値と比べる方法が採用されます。

しかし、自由探索の一部ではこのパラメータが採用されないことがあります。探索オブジェクトのパラメータを設定せずに、プレイヤーキャラクターのステータスによって成否目標値が設定される場合がそれにあたります。

この場合、ゲームマスターが操作する難易度のパラメータのうち、他の2要素(属性と示唆性)への比重が相対的に高くなります。それゆえ、自ずと情報の示唆性が主要な難易度のパラメータとして利用される自由探索状況を招きます(後述)。

(2)属性

形式化探索と同じように、それぞれの情報を取得するためには対応するステータスを参照した「行動」を要求されます。この異なるステータスの参照を条件付けるパラメータを属性と呼びます

自由探索ではあらかじめ属性を設定するのと同程度には、プレイヤーの宣言に応じて属性を即興的に指定することがあります。それゆえ、シナリオ全体の難易度パラメータとして利用される属性と、実際のセッションで利用される属性数は必ずしも一致しません。この性質から、シナリオ難易度とセッション難易度が大きく乖離する場合があります。

(3)示唆性

パラメータを直接開示せずに状況描写のみでプレイヤーの探索行動を促すとき、その描写がプレイヤーの「行動」を誘引する度合いを示唆性と呼びます。そのうち、先に例示したように状況描写から調査対象を選び、抽出したい情報を選択させる効果を「状況描写による示唆性」と言い分けます。一方、これまでに収集した情報などから探索したい情報を推論させる効果を「推論による示唆性」と言い分けます。

a.状況描写による示唆性

状況描写による示唆性は、次の数段階に分類できます。

  1. 明示:設置場所と調査対象の存在を明示(属性や目標値は秘匿)
  2. 誘導:情報設置場所を表現上強調する
  3. 言及:情報設置場所の存在に言及する
  4. 秘匿:情報設置場所には言及しない

これまでに登場したいかなるパラメータとも異なり、状況描写による示唆性はゲームルール内でその設定方法が定められません。それゆえ、ゲームマスターに高いマスタリング難易度を課すパラメータと言えます。

ルールによる制約が働かない性質から、同様に対プレイヤー難易度も容易に引き上げてしまいます。すべての情報の存在に言及せず「さあ探索してください、以上。」と開始した場合、これをこなせるプレイヤーはほんの一握りしかいないでしょう。

b.推論による示唆性

しかしプレイヤーへの負荷という点では、推論による示唆性に勝るものはありません。推論による示唆性は、初めから状況描写による示唆性を言及または秘匿に設定した状態で、他の情報などからプレイヤーキャラクターの行動を発想してもらう場合に発生します。

推論には大きく3種類が存在し、推論による示唆性もこれに対応します。

  • 帰納示唆:複数の同種の事例を示し、現況を解釈させる推論
  • 演繹示唆:一般法則を示し、今回の事例に適用させる推論
  • 仮説形成示唆:状況を説明可能な仮説を想起させる推論

これらのうち、帰納と演繹による示唆の難易度の差はありませんが、仮説形成示唆の難易度は相対的に高くなります。

これだけではどのような事態かわかりにくいので、念のため次章で例示します。

 

 

3.推論による示唆性の例

推論は謎解きを中心にしたシナリオでしばしば利用されます。以下の例では、推論難易度が低くとどまる情報提示手段を紹介します。より複雑な推論による示唆性を設計するためには、下記に示されるような推論を複数組み合わせる必要があります。

例1.館の外に出たら死にます
帰納:NPCが館の外に出て死亡します。
演繹:「館の外に出れば命はない」と書かれたメモが見つかります。
仮説:館の玄関先に複数の遺体が発見されます。

よくある場面ですが、推論の方法によって演出は変わります。先述のように、このうち仮説形成示唆だけが難易度が高くなります。

例2.このNPCは味方のふりをした敵です
帰納:一度プレイヤーの利益に反する行動をとります。
演繹:「敵は腕に印を刻んでいる」などという情報を得ます。
仮説:かつて繰り返された裏切りの記録が見つかります。

複雑な内容でも推論の方法は定められています。いずれかの推論方法に沿った演出を入れなければ、推論によって解決可能な課題とは言えません。

例3.この化け物はあの少女そのもです
帰納:化け物に変化する事件を目の当たりにします。
演繹:「人の姿が変わり、化け物となる」という伝説が語られます。
仮説:化け物が少女の思い出の品や親族への攻撃をためらいます。

このように分類することで、推論による示唆性のシナリオへの組み込みも容易になります。

ただし、推論による示唆性はプレイヤーの負担(=対プレイヤー難易度)が大きいため、シナリオの中に1つか2つを限度にすることが望ましくなります。たとえば、例1のような情報はゲームマスターによる発言として明瞭に伝達することも可能です。シナリオ全体を見渡して、不必要な対プレイヤー難易度をゲームマスター発言に切り替えることで、シナリオ難易度を変更することができます。このような操作こそ、推論による示唆性パラメータの調整による難易度設定に他なりません。

また、上述のいずれかの方法によって推論を誘導する配慮がない場合、プレイヤーがその情報を発見して克服する可能性は極めて低くなります。そうした場合、状況描写による示唆性のパラメータを変更し、推論以外の手段(たとえばキャラクターの発想力や注意力、観察力を問うステータスを利用したダイスロールなど)によって克服できる探索対象に再設定することが推奨されます。

推論ルールに違反した推論の組み込みは、ダイスロールで不可能な目標値を設定することと同じ過ちです。シナリオの都合上開示不可能な情報を除いて適切な推論方法を設定し、過剰に推論に依存しないようにしなければなりません。

 

 

後半に続く