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難易度のパラメータとバロメータ【TRPGの難易度を解きほぐす(2)】

前回、TRPGの難易度をどのように定義できるのかということを論じました。

trpg.hatenablog.com

その結論は、プレイヤーたちの「行動」とゲームマスターの「行動」がゲーム内世界で対抗関係に置かれた時に難易度が発生すると要約することができます。

 

さて、TRPGプレイヤーが経験する難易度を決定付けるのは、ゲームマスターの「行動」でした。今回の議論は次のことを扱います。つまり「難易度はいかにして作り出され、いかにしてプレイヤーに伝達されるのか」という課題です。

今回からしばらく、議論はプレイヤー側の視点に立った難易度のみを扱います。次回以降は、さらに探索難易度と戦闘難易度という具体的なテーマを扱いますが、今回までは分析のための道具の整理に集中します。今回整備されるのはパラメータとバロメータという二つの概念です。

 

パラメータとは「ゲームマスターが難易度を左右するために操作することのできる要素」を指します。

バロメータとは「決定された難易度をプレイヤーたちが推し量るための情報」を指します。

これらの要素を意識することで、TRPGセッションにおける「行動」のやりとりが持つ意義を再認識することができます。

 

「前回に続いて当然のことを話してどうするつもりなんだ…」そう思われる方もいらっしゃると思いますが、ゆっくりじっくり進んでいきましょう。

 

メニュー

1.パラメータとバロメータはなぜ必要か

2.難易度を決めるパラメータ

3.難易度を伝えるバロメータ

補足.実難易度と仮想難易度

 

1.パラメータとバロメータはなぜ必要か

「また不必要な言葉を導入して…」などと言われないように、最初にこれらの言葉を導入する理由から説明しておきましょう。

 

難易度という概念が抽象的で計測困難である以上、私たちはその状態を推し量る方法が必要になります。

たとえば治安や景気など、その構成が複雑であるにもかかわらず良し悪しを量的に比較できる概念があります。このとき利用されるのがバロメータです。犯罪率は治安の良し悪しの参考指標(バロメータ)であり、GDP成長率や株価は景気の参考指標(バロメータ)です。もしTRPGにおける難易度を論じようとするなら、やはり同種のバロメータが必要になるはずです。

 

また、このような複雑なメカニズムをもった対象を直接操作する手段はふつうありません。治安を良くするためには巡回する警察官の数を増やしたり、人口密度を緩和したり、何か別の数値をいじらなければなりません。景気についても同様で、中央銀行の基準貸付利率を変えたり、特定産業への税制上の優遇を与えたり、部分的な数値によって介入を試みます。このように、全体に介入するための媒介・仲介の役割を果たす個別の数値たちをパラメータと呼びます。

TRPGの難易度の場合にも、これを直接昇降させる手段はありません。それは難易度のアトムの複雑な集合として構成されているからです。それでも、個別のパラメータに介入し、難易度の変化を試みることは可能です。

 

パラメータとバロメータを導入することで、はじめて難易度について実践的な議論ができるようになります。バロメータに基づいて難易度を計量し、パラメータを操作して難易度調整を試みることだけが、複雑な構成をもつ難易度を論じる唯一の方法なのです。

 

2.難易度を決めるパラメータ

さて、改めてパラメータの性質を整理してみましょう。

総論として、パラメータを操作することで難易度を調整していることに違いはないにしても、具体的なパラメータの種類はルールによって異なっています。

たとえばソード・ワールド2.0なら、行為判定の目標値はパラメータのひとつです。しかし、クトゥルフ神話TRPGのd100下方判定では、成功確率をゲームマスターが操作することができません。また、あらかじめ情報の所在を明らかにするサタスペやダブルクロスなどのルールでは、情報の開示性をパラメータにすることができません。しかし、クトゥルフ神話TRPGやソード・ワールド2.0ならば、判定に成功しなければそこに情報があることにすら気づけない状態を作り出すことができます。このとき、情報の開示性をパラメータにしているということができます。

 

したがって、TRPGルールは次の性質を持つことになります。すなわち、設定可能なパラメータの種類を定める性質です。いくらソード・ワールド2.0で恐怖演出を試みたところで、SANチェックは行われません。SANチェックステータスはソード・ワールド2.0のパラメータではなく、あくまでクトゥルフ神話TRPGのパラメータなのです。

 

 

3.難易度を伝えるバロメータ

続いてバロメータの性質を整理しましょう。

もっとも頻繁にバロメータを利用しているのは、プレイヤーです。プレイヤーはゲーム内世界の断片的な情報をもとに、それぞれの「行動」の難易度を推測しています。この判断の参考指標になっている情報は、バロメータと呼ぶことができます。

探索メインセッション内の「行動」の多くは、バロメータを取得するために採用されています。つまり、比較的難易度が低いと判断された「行動」を行うことでバロメータを新たに取得し、次に難易度の低い「行動」を発見し、次のバロメータ取得につなげるというのが基本的なプレイングなのです。

 

ところで、パラメータに比べると、バロメータはかなり自由の利く指標です。目の前に現れた敵がいかに強大であるのかたくさんの言葉を使って熱弁すれば、プレイヤーたちはこの敵を攻略する難易度が高いと判断することができます。このとき、状况描写は難易度のバロメータとして機能したと言えます。

一方で、シナリオやセッション全体の難易度を推測するためのバロメータは整備されていないのが現状です(強いて言えば、シナリオ資料の長さが一つの指標として機能しているのかもしれません)。このシリーズの目標の一つは、このバロメータを整備して、様々なシナリオの難易度を表記する統一的手法の可能性を探求することにあります

 

 

今回の記事までは理論的な前提を作るための記事だったので、抽象的な議論を行いました。実際のところ、この議論を十分に理解しておく必要はありません。

 

次回から、本格的に難易度について議論を行うことになります。具体的な議論のはじめのテーマは、「構造化探索の難易度」です。探索方法が明確に定まっているタイプのルールにおける、難易度のパラメータとバロメータを確認します。

 

 

補論.実難易度と仮想難易度

プレイヤーとゲームマスターの間で情報の非平等が発生しているため、プレイヤーは難易度のパラメータの一部しか知らされずにプレイすることになります。さらに、その数値は曖昧な状况描写によって間接的に伝えられる場合もあり、プレイヤーは常にその難易度を推測しながら、行動判断をしなければなりません。

このとき、プレイヤーの想像する難易度と、実際にゲームマスターが設定した難易度は異なる場合があります。本連載では、前者を仮想難易度、後者を実難易度と呼んで区別します。プレイヤーはゲームマスターから難易度のバロメータを引き出し、仮想難易度を実難易度に近づけていくために種々の「行動」を行います。

2種類の難易度が存在することは、シナリオ難易度とセッション難易度が全く異なることを示唆しています。シナリオが難易度のパラメータを悪意ある難度に設定したとしても、それは実難易度の設定にすぎません。ゲームマスターが大量のバロメータをプレイヤーに提供し、プレイヤーがそれを見事に計算した場合、実難易度と仮想難易度は直ちに一致します。

このようにセッション中の仮想難易度が変化せず、初めから実難易度と一致しているとき、難易度の総量は少なくなります。プレイヤーが検討する「行動」の数が少なくなるたびに、プレイヤーが経験する難易度は減少するのです。

今後は、このような基本原理に基づいて、難易度を判断する統一的手法を検討することになります。