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【リプレイ本】戦慄のトリプルクラウン(下)レビュー

ソード・ワールド2.0リプレイ 戦慄のトリプルクラウン (下) (富士見ドラゴンブック)

上巻の紹介記事で説明したように、このリプレイ本では、お題のくじ引きと、GMリレー形式が採用されています。

それゆえ、物語が進むにつれて、「伏線の回収」という問題に直面することになります。ここからがGMたちの腕の見せ所、というわけです。

 

下巻に至るまでの間に、「『魔王』に対して行った封印が不完全であり、完全な封印を行う必要がある」というシナリオラインが作られていました。

問題は、下巻分の4シナリオで、これを達成しなければならないということ。すでに人物関係や過去の伝承などが出揃っているため、あまり新しい設定を打ち込むこともできません。

 

その状況下で、唐突に課される「お題」が、GMたちのシナリオ形成を妨害します。

しかし、そこはグループSNEの面々です。 見事にミニマルな追加設定を加えるだけで、見事に物語を収束させていきます。魔法王と女騎士の設定を加え、時間跳躍を挟むことで、一つの物語として完結させて見せました。そのシナリオ構成力には賛辞を送らずにはおれません。

 

さて、前回の記事で言いたいことを随分言ってしまっていたので、今回はもっと詳しいレビューをしておきましょう。

 

まずは第五シナリオ「晴れた空から突然に」。

ダンジョン探索シナリオとして設計されていて、それぞれの部屋に用意されていたヒントを元に、謎解きの鍵となる書物を調べる、という手順が採用されています。

ダンジョン探索シナリオを設計する際に、イベントと敵を配置することでマンネリを防ぐというのが基本です。もちろん、敵が多すぎても、かえってマンネリを招くので、注意が必要です。

それゆえ、ここで大切になるのは、イベントにどうやってアクセントをつけるか、ということです。分断や謎解き、部屋ごとの演出をしっかりと練らなければ、冒険はすぐにマンネリ化してしまいます。

その点で、このダンジョン探索シナリオは、やはりうまく設定されていたように思います。あえて倒せるはずもない強敵を配置して、それを排除する方法を謎解きとして他の部屋に配置したりして、全体を連動させる仕組みは、シナリオライティングの勉強にもなることでしょう。

 

 

第六シナリオ「Chronos Chaos」では、ウィルダネスアドベンチャーによる探索・戦闘が採用されています。

ウィルダネスアドベンチャーは、特定の野外地域を大きくマス目で区切り、その上を【地図製作判定】を行いつつ移動するというシンプルなものです。この方式は、マス目移動という都合上、正方形型に用意されたマス目に配置されたイベントの多くが消化されないという特徴を持ちます。

それゆえ、重要イベントをこの中に取り込むことができません。 その点で、ストーリー性の強いキャンペーンシナリオでの使い勝手はそうよくはないと感じました。道中での戦闘と探索をいちおう「ゲーム化」することには貢献したようですが、この形式による必要があったのかと問われると、首を傾げざるを得ません。

とはいえ、前のGMによって課された時間跳躍という無理難題を見事に収拾して見せた点ではやはり優れたシナリオ構築力だったと評価できます。

 

 

第七シナリオ「愛、大空を舞うとき」は、最も賛否が分かれるセッションでしょう。

なにより、空中戦の再現としての「おはじきゲーム」は、「ソード・ワールドじゃない」という誹りを受けても仕方がありません。個人的な評価を言えば、こんな自由なマスタリングを提出してくれたことは、一般プレイヤーたちの発想の助けになるのではないかと思っています。

重要なのは、楽しむことであって、ルールに従うことではない、ということを、これほどまでに体現したマスタリングはないでしょう。 刺激的な空中戦がメインになったことで、その他の戦闘などはやや消化試合的な様相を呈することになってしまってもいます。

しかし、それでも、この画期的なテーブルゲーム融合型TRPGの提案は、「ゲーム」を愛好する姿勢がよく伝わる、よいシナリオ設計だったと評価したいと思います。

 

 

最後に、第八シナリオでは、無事にすべての伏線、そしてタイトルが回収され、キャンペーンは大団円のうちに終了します。キャンペーンボスとの戦闘はなかなか見ものでした。

 

 

全体的には、TRPGやテーブルゲームに熟達した面々によるマスタリングは、やはりシナリオ設計上の工夫に富んでおり、今後のシナリオライティングに大いに役立ちそうだ、という感想を持ちました。

その意味では、プレイヤーとして参加する人よりも、ゲームマスターの参考書として、非常に優れた一冊と言えるのかもしれません(もちろん、プレイングの魅力についても上巻紹介記事で言及した通り)。

 

そんな魅力的な一冊。あなたもお手にとってみてはどうでしょうか?

 

 

 

ソード・ワールド2.0リプレイ 戦慄のトリプルクラウン (下) (富士見ドラゴンブック)

ソード・ワールド2.0リプレイ 戦慄のトリプルクラウン (下) (富士見ドラゴンブック)