TRPGをやりたい!

電源・非電源ゲーム全般の紹介・考察ブログ

クトゥルフ神話TRPGシナリオのための生物学講座(2)ホルモンとマイクロバイオーム

思いついたら一気に書くが信条のわたし。早速第2回です。

 

前回はDNAを勉強して、ウイルスがそれを書き換えるという話をしましたね。

今回は少しだけスケールを大きくして、微生物と人間の関わりを勉強することにしましょう。

なお、今回の後半で登場する神話生物は、ズバリ「這うもの」です。事実上、わたしが現在執筆中のシナリオの種明かしになります。変なことを考える奴がいたものだと思ってくださったら、わたしは大変嬉しい限りですね。

 

メニュー

  1. ホルモンって牛の内臓だろ?美味いよな
  2. 微生物は“考える”
  3. 人間と微生物の『大きさ』比べ
  4. 「這うもの」が作り出されるメカニズム

肩の力を抜いて、今日も勉強を始めましょう。

 

 

1.ホルモンって牛の内臓だろ?美味いよな

違います!!…いえ、たしかにそうですけど、今日の話は違います。

 

環境ホルモンとか、女性ホルモン・男性ホルモンとか、いろいろ聞いたことありませんか?今日の話はそっちのホルモンです。

 

大前提として、ホルモンって、特定の物質のことを指す名前じゃないんですよ。つまり、「犬」に品種がいるのと同じように、「ホルモン」にはたくさんの種類があります。

でも、「犬」に共通する性質があるように、「ホルモン」にも共通した性質があります。それが「細胞のモード変更の指令を届ける」という役割です。

 

たとえば、わたしたち、みんな成長期が過ぎると、もう身長が伸びなくなりますよね?いったいなんで、こんな制御ができるんでしょうか?

実は、成長モードのオン・オフや、男性形質・女性形質の促進指令、血糖分解のオン・オフ指令などが機能するのは、すべてホルモンのおかげなんです。

ですから、深きものの混血児が、成人後に少しずつ深きものに目覚めていくのも、ホルモンの影響と考えられます。年齢が増して、テロメア(細胞分裂の回数に応じて短くなるDNAのパーツ)が短くなれば、それに応じて内分泌系が作動して、ホルモンが分泌されます。これを受け取った細胞で、「深きもの遺伝子」のスイッチがオンになるわけですね。

 

このように、ホルモンは、生物の状態変化を司る物質です。それゆえ、多くの生物が、ホルモンを使って体を制御しています。微生物から虫、すべての動物に至るまで、ホルモンを使わない生物を見つけることはできません。

それほど広く利用されているホルモンですが、その性質は、まだ十分に解明されたとは言いがたい状況です。これからの研究に期待が寄せられています。

 

 

2.微生物は“考える”

さて、ホルモンは、ふつう、内分泌系で作られる物質であり、体外の物質のことを指して用いられることはありません

それでも、体外で発生した化学物質が、人間の細胞の状態に影響を与えることがあります。こうした物質を、(体内ではなく)環境中に存在する、ホルモン(と似た働きをする物質)という意味で、「環境ホルモン」と呼びます。

 

前回の講座では、ウイルスが人間の細胞膜や細胞核に侵入し、DNAに介入するという話をしましたが、今回、私たちに介入するのは、この「環境ホルモン」です。

 

有名な環境ホルモンに、ダイオキシンがあります。野生生物の生殖能力を中心に、重篤な異常をもたらした物質として、排除運動が起こったのは記憶に新しいですね。

ダイオキシンがその典型ですが、環境ホルモンが体の中に侵入すると、本当に必要な命令とは別の「細胞モード変更指令」が届けられてしまいます。そのため、体内で深刻な異常が発生してしまう可能性があるのです。

 

環境ホルモンを生み出しているのは、いつも人間であるかのように誤解されていますが、微生物の世界では、面白いことが発生しています

微生物は、その増殖状況を他の微生物に伝えるために、体外に特定の化学物質をまき散らします。微生物は、目も見えなければ、数も数えられませんが、その化学物質の濃度を感知することで、自分が細胞分裂しても、コロニー(微生物の村)が食糧難に陥らないかを判断しています。

これは、単細胞生物が、体外から「細胞モードの変更指令」を受け取って、むしろ有益な効果を得ている例です

このようにして、微生物は、互いに「環境ホルモン」として、情報を受け渡ししながら、生存を図っているのです。

 

微生物が、お互いに情報をやり取りするメカニズムは、実は、アドレナリンなどのホルモンを利用した、人間の脳と大差ありません。その計算速度はどうしても遅くなりますし、細胞の密度が異なるために、機能としては及びませんが、微生物群は一つの集合的知性を構成していると評価されています

 

 

3.人間と微生物の“大きさ”比べ

人間の体表面や、内臓には、たくさんの微生物が生息しています。その種類は多岐にわたっていて、一つの生態系を構成していると言っても過言ではありません。この、体内微生物生態系のことを、「マイクロバイオーム」と呼びます

 

衝撃の事実なのですが、人類の遺伝子が2万数千個なのに対して、この微生物生態系の遺伝子量は300万に達します。細胞数でも、人間の細胞の10倍の量の微生物が生息しています。

つまり、私たちの体は、すでに、人間として独立しているというより、微生物とともにあるのです

 

さて、もちろん、これらの微生物も、私たちの体内で、ホルモンを使いながら、自分たちの増殖や活動を制御しています。

 

その微生物同士の情報のやり取りが、私たちの体に影響を与えることがあります。

 

人間の腸は、最も多様な微生物が生息する臓器であると同時に、脳に次ぐ神経細胞の密集器官です。ここにおいて発生していることは、人間の神経に対して、微生物のホルモンが介入することに他なりません

この数年で誕生した「サイコバイオティクス」という研究分野では、微生物が脳に影響するメカニズムを研究しようとしています。

 

人間の細胞数や遺伝子数を圧倒的に凌駕する微生物との、危険な共存関係が見えてきたでしょうか?

 

 

4.「這うもの」がつくりだされるメカニズム

今回と前回の内容を理解した方なら、「這うもの」というクトゥルフ神話のクリーチャーについて、その存在がどのように機能しているのか、似非科学的な説明を作ることができるでしょう

 

まず、微生物が人間の形をとることについては、次のことがわかります。

  1. ウイルスを媒介にしたり、純粋に取り入れたりして、人間のDNAの一部を体内に取り込むことは不可能ではない。
  2. お互いにホルモンを授受しながら、人間形態を保持するように制御すれば、人の形を保持することも可能。

そうなんです。昆虫が集合知性として人間の形を保つためには、おそらく、人間の骨組みが必要ですが、大小の微生物が寄せ集められた場合、骨組みなしでもなんとかなる可能性があるのです。

 

というか、考えてもみてください。私たちの体は、様々に機能分化した細胞の寄せ集めでできています。そして、その細胞の数よりも多くの微生物が、私たちには住み着いているのです。

いったいどうして、細胞が人間の体を全て真似ることができない保証があるのでしょうか?人間だって、所詮は細胞の塊です。微生物が十分な機能分化を達成しさえすれば、人間の形にだってなれることでしょう

 

しかし、ここで微生物たちは三つの問題に直面します。

第一には、栄養の循環という問題。第二には、思考速度の遅れ。第三には、全体の安定性の欠如です。

 

(1)栄養循環の問題

人間は、血液と組織液を利用して、体の隅々に栄養を行き渡らせています。

しかし、常に人型をとる微生物群がそれを達成しようとすれば、栄養素をどこから吸収し、どのように運搬するのかということまで含めて、全く新しい機構を作り出さなければなりません。

こうした高度な機能分化状態を集合的知性によって維持するのは困難と考えられるため、人間形態を形成しているときに、栄養摂取したり、人間風の呼吸を行ったりすることはないと考えるべきでしょう。

 

(2)思考速度の遅れ

内分泌物質を使った細胞刺激パターンを生み出すことに特化した、脳に当たる細胞が存在するわけではありません。あくまで、ホルモンの受け渡しによって、擬似的に思考を再現することしかできないからです。シナプスを持たない性質から、この細胞群の思考はいくらか緩慢なものになるでしょう。

しかし、人型の細胞群全体が、思考する細胞として機能します。このため、人間よりも多くのことを記憶していたり、学習していたりする可能性も否定できません。

 

(3)全体の安定性の欠如

一番の問題は、骨に当たる組織がないために、上方にいくにつれ、不安定性が増すことです。この性質から、頭部が欠損した「這うもの」や、足の部分だけ、別の組織を作り、安定性を高めた「這うもの」が存在してもおかしくはありません。

 

…以上の性質、わたしが何を示唆しているか、わかりましたか?

第一の性質は、細胞群による人間型の形成が、一時的に行われるにすぎない可能性を示唆します。突然、その辺の微生物が連動して、人間型を生み出し、次の瞬間には消えて無くなるのです。おそらくは、妙な湿り気をそこに残して。

ここに、第二の性質を加えると、呼吸を行わない性質から、声を出すことができず、また、複雑な感情などを直ちに利用することができないという性質が加わります。

そして、第三の性質は、脚がない人間や、首がない人間を生成する可能性を示唆しています。

なお、細胞の集合であるこの人型の「這うもの」は、全体に、青白い色をしていることでしょう。

 

…もう、わかりましたね?

こうした性質、実は、多くの幽霊に共通する性質です。

この幽霊=微生物集合説を採用すると、人間に宿っていたマイクロバイオームが、なんらかの方法で人間のDNAを吸収し、なんらかの理由でそれを再形成することがある、という、奇妙な設定が生まれます

この設定を使えば、ただ「這うもの」が動き回っているだけのシナリオではなく、「這うもの」が死んだ知り合いの形をしていたり、神出鬼没に姿を現したり、はたまた、自分自身が微生物に吸収されるかもしれなかったり…そんな様々なシチュエーションを、科学的整合性を保ちながら、利用することができるようになります。

 

ホルモンのお話は、昆虫のクチクラの話と、ニョグタの落とし子の話をするときに、もう一度登場しますので、お忘れなきよう。