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【読書記録】帝都物語 第壱番 荒俣宏

よく知られた一作である、帝都物語シリーズの第1巻をようやく読み終わりました。

 

正直なところ、読むのにものすごく時間がかかってしまって、個人的にはどちらかといえば苦手な作品に数えられるという結果になりました。ファンの方には申し訳ない。

 

私の個人的な感想としては、「一所懸命な作品」という言葉で評価することになるのでしょうか…あるいは、「雰囲気重視の作品」ということになるのかもしれませんが、これでは評価が低すぎるような気もします。

 

なんにせよ、一定の面白さがあったことは事実です。

ひとまずレビューをしていこうと思います。

 

帝都物語 第壱番<帝都物語> (角川文庫)

帝都物語 第壱番<帝都物語> (角川文庫)

 

 

 

1.これ、完全にラノベっすわ

まず、文学から読書好きになった身から、この本を評するときに欠かせない一言が、「説明不足」あるいは「物語の筋に作者が熱中しすぎ」ということでしょう。

 

荒俣さんがとにかく風水やら呪術やら物理学やら歴史やら人物譚やらが好き、というのはよーく伝わるんです。その意味では、はっきりこう言っていいでしょう。この作品、趣味小説です。趣味が合う人にはこれ以上ないほどのエンターテインメントでしょうが、その一方で、趣味が合わない人にとっては、長時間オタクの熱い語りを聞くような、興味深くも決して幸福とは言えない時間を提供することになります。

 

とにかく、この本でやりたかったのは、作者の趣味を共有した登場人物たちが、作者のイメージ通りに喋って、たった一つのアイディアである、関東大震災呪術説を実現するということです。その強烈なインパクトだけが、本作の魅力であり、その意味では、ファンタジー系ラノベのはしりと見なしてまず間違いがありません。

 

だって、一緒じゃないですか。オタク知識に詳しい人たちがそれこそ世界の本当の知識だと言わんばかりに熱中して語り合っていたら、いつのまにか世界を揺るがす大事件の中枢にいる…。その点では、本作の登場人物たちは相応の文化人や重役たちなので、まだしも現実的と言えるのかもしれませんが…。

 

 

2.ラノベとして評価してみよう

というわけで、これ、ファンタジーラノベです。ストーリーさえ追っていれば、それ以外のことは表現されていませんし、なんらかの印象を与えるために表現上の工夫が凝らされているわけでもありません。ぶっちゃけ物書きとしては下手な部類です。

その点で、表現力については難があると言わざるを得ません。10人中1〜2人程度が楽しめる小説といったところでしょうか。表現上の工夫によって読ませる小説に仕上げていないため、趣味に合うか合わないかで大きく評価が分かれてしまうでしょう。

 

ただ、見るべき点はあります。

第一には、調査力です。どの程度史実に基づいているのかわかりませんが、まず、それぞれの人物の振る舞いや、時代的事件について、しっかりと調査が行われています。加えて、扱われている知識の幅はかなり広いと言ってよいでしょう。風水と遁甲についてだけが深く、他は浅いのですが、少なくとも、多様な知識を取り入れて、一つの物語を構想していることは確かです。

 

第二には、「知識のごった煮」を生み出す強さです。この小説で用いられている多様な知識は、それぞれが決して詳細に解説されてはいませんし、本当の意味で相互に矛盾ない接合が果たされているわけではありません。しかし、作者の感覚的力技によって、それはなんとなーく相互に関わっていて、それとなーく矛盾しないものとして、ひとつの「ごった煮」を構成しています。

 

実際のところ、このくらいの情報処理能力を持ったラノベ作家は現在でも稀なのではないでしょうか?(それにしても、もうちょっと頑張れよ、とは思いますが。特に大連と東京の共振現象の下りなんて、なんだか鼻で笑いたくもなります。科学的粉飾を施した陰陽師ファンタジーという評価が妥当でしょう。)

 

こうした特徴から、「帝都物語的世界観」をぶち上げていることもたしかです。つまり、現実の世界をこの世界観に照らして解釈することが可能になるのです。これによって、「帝都物語史観」が誕生したり、「帝都物語解釈学」が発生したりしそうな匂いがプンプンします。

 

総じて、大きな物語を作り上げたという点では評価に値しますが、そのディテールはかなり雑で、だからこそ、カルト的な人気を生み出しそうという、悪い予感(それは現実になったのでしょうが)がしてなりません。言い換えれば、人間、よくわからないものについては、科学的粉飾を使って語ってもいいんだ、という、勉強不足を補う雑さが、多くの読者を魅了しそうなのです。

 

その点では、「とある〜」とか「ソードアート〜」とか、「アクセル〜」とか、その辺と似た匂いがします。適当で雑な科学知識でも、前面に押し出したい「感じ」を伝えるためにはとりあえずそれっぽいこと言っとけば大丈夫、と。

 

とはいえ、それが理由で小説を否定することは誰にもできません。そうした性質に魅力を感じる読者が一定数いることはたしかなのですから。

 

というわけで、この作品は、ラノベ読みの方々に推薦することになります。

現在のライトノベル的発想をかなり早い段階で実現していた作品として、ぜひチェックしてみてください。

 

帝都物語 第壱番<帝都物語> (角川文庫)

帝都物語 第壱番<帝都物語> (角川文庫)