【クトゥルフ神話TRPGリプレイ】忘却の結末【part.11】
【前回のあらすじ】
夢でも、現実でも、謎が積み重なってしまい、身動きが取れなくなってしまった伏原。一縷の光明である滝原は、幸いにして大間々を訪れていた。
早速彼との面談をセッティングする伏原だったが、持病の人間不信が再発し、ハルカには変装を施したうえ目につかないところに隠し、自分も交渉の体制を整えて、滝原という人物を秤にかけようとする。
果たして、彼は信頼に足る男なのだろうか?
知りすぎている男、滝原馨
伏原「それで、やり残したこと、というのは一体なんなんですか?」
滝原「ああ、あなたは、まだこの問題の全体像を理解なさっていないでしょう?だとしたら、お伝えするのも無駄なことです。世の中には知らないほうがいいことも沢山ある。」
伏原「キーパー、彼を信用させるために、クトゥルフ神話技能を行使します。」
KP「信用じゃないのかよ!」
〈クトゥルフ神話技能〉ロール → 成功
KP「そしてなぜ成功する(苦笑)」
伏原「これまでに出会った怪異について、宇宙的真理に基づいて話します。」
〈クトゥルフ神話技能〉ロール → 成功
KP「なぜこちらも成功する(苦笑)」
滝原「なるほど、あなたも素人ではないんですね…。いいでしょう、もう少しだけ、お話ししましょうか。」
KP「滝原さんに聞いておきたいことを尋ねれば、しばらくの間答えてくれますよ。」
伏原「やったぜ。結構疑問が残っているので、一気に消化していきましょう。」
八宮神社には何がいるのか?
伏原「まず、八宮神社の件です。ハルカが嫌がっていましたけど、あそこにはいったい何がいるっていうんです?」
滝原「ああ、まだ訪れていないのですか。ぜひ行ってみるといいですよ。なに、ハルカを取って食いやしません。あそこにいるのは、どちらかといえば、我々の味方ですよ。ずいぶん奇形になってしまっていますが。確か名を、上毛野利孝といましたか。」
伏原「人間がいるんですか!?」
滝原「いえ、“人間だったもの”に過ぎません。ハルカや他の鬼子たちとは違った種類の奇形に変わり果てていますから、いくら心構えをしても、ぞっとさせられるでしょう。」
伏原「なんと…。」
滝原「しかし、彼は今回の件についてあまり重要な情報を持っていないと、私は睨んでいます。遠い昔、豊城入彦命がこの地を制圧して以降、鬼たちを監視してきたという程度のことでしょう。それにもかかわらず、度々制圧戦争が行われてきたことには疑問が残りますが…。まあ、それらの戦争と彼個人とはあまり関係がないことでしょうし。」
伏原「なるほど。では、今夜にでも訪問してみます。」
山羊の神がいない理由
伏原「それから、どうしても理解できないことが。」
滝原「なんですか?」
伏原「私が見るに、ハルカの尻尾は山羊のものです。そして宇宙的真理もあれは山羊だと、私に囁きかけます。しかし、いくら調べても、出るのは鹿ばかり。滝原さんの著作でも、十二様を鹿神だと書かれていましたよね?いったいなぜ、山羊ではなく鹿なんです?」
滝原「ああ、日本には山羊・羊がいなかったんですよ。九州の長崎、五島列島あたりにはいたんですが、本州では稀に大陸から贈られてくる以外、まともに飼育されていませんでした。ですから、農民たちが山羊や羊の存在を知る由もなかったんです。」
伏原「ああ、なるほど!」
滝原「それゆえ、十二様の姿を見た農民たちは、それをもっとも近しい、ツノと蹄を持った動物、鹿になぞらえたわけです。」
伏原「それで鹿神、と。その実態は山羊神であるにもかかわらず、ということですね。」
滝原さんの目的とは何か
伏原「それで、やり残したことについて、教えていただけますか。」
滝原「いいでしょう。私は、経津主神に出会いました。まずは、奴を殴り飛ばして、屈服させなければなりません。」
伏原「は!?」
滝原「つまり、ハルカをこの循環から解き放つ術を知るためです。あなたは、“羊”と呼ばれる古代末期の謎の人物をご存知ですか?」
伏原「いえ、まったく。」
滝原「ここからやや南に行った土地、多胡郡に、一つの石碑が残されています。そこには、『和銅4年、近隣3郡から300戸を切り取り、“羊”なるものに与え、これを多胡郡とした』という銘が刻まれた石碑が残っています。」
伏原「“羊なるもの”、ですか。」
滝原「これは極めて妙なことです。まだ羊がいなかった時代に、羊の名を冠した地方豪族が誕生している。舶来の羊にちなんでいることから、渡来人じゃないかとも言われていますが…。」
伏原「しかし、私たちの目から見れば、違った存在にしか見えない。」
滝原「そうです。異界の理、山の世界から人間の世界に下ってきた、山羊神の使い。山羊から羊へと身を落とした者。」
伏原「もしかすると、かつての『とおとふたつのかみ』の一柱。」
滝原「そういうことです。この伝承の面白いところは、この“羊なるもの”、一般には多胡羊太夫と呼ばれますが、羊太夫の脇には、いつも一人の女天狗が控えていた、というところです。」
伏原「まるで、ハルカがいつも誰かを伴って大間々に現れるように、ですか。」
滝原「まさにその通り。この女天狗、八束小脛(やつがのこはぎ)というのですが、これがどうして、随分長い間、羊太夫とともに過ごしていても、死ななかったんです。」
伏原「その力の謎が解明できれば、ハルカを救える、と。」
滝原「私は、そう考えています。そしてその鍵を握るのが、経津主神だ、とも。」
経津主神とは何者なのか
伏原「なぜですか?」
滝原「経津主神は、物部氏の氏神でもあるのですが、のちに建甕槌命に神格を奪われています。つまり、藤原氏によって、その姿の書き換えが起こっているのです。」
伏原「はい、その辺りは、私も調べました。」
滝原「そして、私は他ならぬ経津主神と名乗る鹿神に遭遇したのです。夢の大間々で。つまり、経津主神は古い信仰に属する鹿神それ自体か、その上級の神使に違いありません。」
伏原「なるほど…。しかし、多胡羊太夫との関わりは?」
滝原「根拠とするには曖昧ですが、『ヒツジ』と『フツヌシ』との音の関係が指摘されています。それに、上毛野家の一部は、物部氏と密接な関係にあったとか。」
伏原「たしかに、そんなことを調べた記憶があります!」
滝原「つまり、多胡羊太夫は、経津主神と関係を持った存在であり、ともすれば、その力によって、人間の世界に解放されたのかもしれないのです。」
伏原「なるほど…。あくまで仮説とはいえ、それだけの推測ができているだけで、大違いですね…。」
伏原はどう動く?
滝原「そういったわけで、私はもう一度、あの夢の世界へ赴く方法を探しているのです。」
伏原「夢の世界へ、ですか?」
滝原「そうです。ハルカがいた間は、あんなに簡単に夢の世界に赴くことができましたが、彼女が去ってから、まったくそんなことはできなくなりました。しかし、どこかにこの二つの世界をつなぐ、秘密の門があると、私は考えています。」
伏原「なるほど。たしかに、門さえあれば、簡単に移動できますからね。」
滝原「とにかく、時間があまりないので、私はこの辺で、私なりの調査を続けようと思います。あなたの調査状況では、私と協力するにしても、情報に偏りが多すぎて…。」
伏原「ちょっと待ってください。しかし、私には決定的に優越した点があります。」
滝原「なんですか?」
伏原「夢の大間々に行けるってことですよ。」
滝原「…なるほど。つまり、私の指示に従って、夢の大間々で情報収集を行う用意がある、と。」
伏原「はい。ここは協力しませんか?」
滝原「いいでしょう。それなら、私からお願いしたいことは、2つあります。」
ハルカと滝原の再会
伏原「いえ、その前に、一つだけ、はっきりさせておきましょう。」
滝原「何か?」
伏原「あなた、ハルカを憎んでいますか?こんなわけのわからない責務を負わされて、場合によっては、あなたは、一度、鬼子を…。」
滝原「皆まで言う必要はりません。それは人知の及ばない神の理において、やむを得ないことだったのです。しかし、あの愛くるしい少女を放っておくことの方が、私には心苦しい。こうやって、人の恨みを買い続けるのが、彼女の定めだというなら、それから救ってやらねばならないと思うんです。」
伏原「…だそうだ、ハルカ。」
ハルカ「おにーちゃん、私も、出てっていい?」
伏原「いいぞ。」
滝原「…ああ、なるほど、電話ですか。じゃあ全部聞かれてたんですね。いや、恥ずかしいなぁ、まったく。」
伏原「いえ、これまでの経験から、怪異に関わって、正気を失っていく人を見てきているんです。どうしても、すぐには信頼できなかったもので。」
滝原「ええ、当然の対応でしょう。」
ハルカ「滝原さん、お久しぶりです。」
滝原「ああ、ハルカ。ずいぶんおとなしい格好をしてるね。あ、そうだ、袴はどうでした?」
伏原「はじめ見たとき、ギョッとしましたよ。ああいう趣味の悪いいたずらはやめてください!」
滝原「そうでしょう?やっぱり日本の怪異には和服を着せないとね(笑)」