文章表現講座という動画を発見
今日、文章表現の講座を行っている動画を発見しました。
動画の投稿自体は2014年のものなので、以前からあったのですが、これまで発見していませんでした。
その動画というのが、こちらです。
1.動画の内容の紹介
こちらの動画、写真を一枚取り上げて、それを言葉で“スケッチ”する、という考え方が採用されています。
講座とはいえ、具体的なハウツーを紹介してくれるわけではありません。
教えてくれるのは、
- 見えている光景を箇条書きで抜き出し、
- それを一つの文章にまとめ
- 印象を付け足して
- 自分風にアレンジする
という、極めてシンプルな手順です。
2.TRPGにも活かせる?
この動画を当ブログで紹介したのは、もちろん、TRPGにも活用できるだろうと考えたからです。
私がGMをやっているとき、まだTRPGに慣れないプレイヤーが、しばしば「映像を見せろ」と要求してきます。
そもそも、TRPGとはそういうゲームではなく、言葉でイメージするものです。しかし、小説もあまり読まない人で、漫画・アニメをメインに生きてきた現在の若い世代を想定してみれば、事情は異なります。むしろ彼ら・彼女らは、ビジュアルイメージを自分で想像するという技術をあまり身につけていない可能性があるのです。
そうした人々にTRPGの面白さを理解してもらうためには、GMの表現力が極めて重要な要素になってきます。
たしかに、まずは可能な限り資料を用意することが前提とはなります。しかし、すべての場面に対して、あらかじめ資料を用意することが当然視されるようになれば、明らかにGMのハードルを高めてしまうことでしょう。
そうした不必要なハードルを取り払い、GMの負担少なく、円滑なセッションを行うためには、プレイヤーが互いに「言葉による表現」によく慣れておく必要があるのです。
3.GMが練習しておくべきこと
というわけで、私としては、この、景色を描写する「言葉のスケッチ」の練習を強く推奨します。
ちょっとやってみましょう。
何年も前に撮った写真ですが、こんなものを見たとしましょう。
カエルの置物から水が飛び出して、水鉢に注がれていますね。
しかし、それだけ言ったところで、画像を見ていない人には全くどういう状態なのかわからないはずです。
状態を説明するためには、まず、情報を具体的にする必要があります。
この場合、まず必要なのは、「カエルの置物『の口』から」と、水の飛び出しているポイントを特定することでしょう。
次に、カエルの置物のサイズを伝えなければなりません。比較物が三角コーンしかありませんが、たぶん、「人の膝丈くらいの大きさ」でしょうね。
さらに、カエルが口を開いていることを伝えておきましょう。「置物のカエルが『開いた口から』」と表現を改めるだけで大丈夫ですね。
ここで気づいておくといいのは、もしも「カエルが水を『吹き出す』」と表現した場合、口をすぼめている印象を与えるということです。ここでは、どう考えてもカエルの力によって水が出ているようには見えないことに力点を置くために、『吹き出す』とか『吐き出す』といった、カエルの動作を示す動詞ではなく、『飛び出す』のような水の運動を強調する動詞を採用しましょう。
これでカエルの置物の姿については伝わりましたか?
・・・いいえ、まだです。
このカエルが、花崗岩質の、丸みを帯びたデザインをしていることを伝える必要があります。また、口を上むきに開けているのか、下向きに開けているのか、つまりどういう姿勢をしているのかも伝わっていません。
これらのことを伝える表現を加えたら、そろそろ水の表現に移りましょう。
水の飛び方はどう表現できるでしょうか?私なら、「放物線を描いて」と表現するでしょう。なんなら、「…開け放たれた口から飛び上がった水が、その水滴を弾かせながら、水鉢に落ちていく」というような、水滴の形状を含めた表現を加えるかもしれません。
ここで「落ちて『いく』」という表現を採用したのは、この水がおそらくは継続的に発射されているということを伝えるためです。一瞬だけ吹き出された水の塊なのか否かを判断させる重要な言葉です。
水鉢の方はどうでしょうか?
影になってよく見えませんが、おそらくは同じ花崗岩質の、膝くらいの大きさの、大口の水鉢に、水がなみなみと溜まっています。そこに打ち付けられた水が、弾けて、夏の日差しに焼かれた町並みの中で、涼しげな響きをもたらしています。
といったところで、私なりにあの様子を表現した文章が、次のものになります。
膝丈ほどの花崗岩質のカエルの置物が、惚けたように口を空に向かって開いている。その口から、水が勢い良く飛び出して、中空に放物線を描く。小さな滴へと形を崩しながら中空を舞う水は、日差しの中に輝きを放ちながら、水をいっぱいに抱え込んだ広口の水鉢へと、その身を打ち付けている。絶え間なく弾ける水音が、夏の日差しの中に、涼しげに響いていた。
真面目な文章を書くときの私っぽくて、結構好みの文章に仕上がりました。
しかし、GMが練習しておくこととして、この練習ははじめの一歩にすぎません。
4.場面によって表現は変わる
先ほどの文章は、ニュートラルに、見えたものを描写しました。それも、どちらかといえば、清々しい、晴れやかな気分でこの光景を見ている人間を想定しています。
しかし、もしも、この置物が、何かしらの怪奇事件と関わっていたり、悲劇的な事件の結果石にされた人間の末路だったりするなら、こんな表現をしてはいけません。
そう、表現は場面と主観者の感情によって大きく変わるのです。
顎が外れたように口を開け放ったカエルの石像がひとつ、道端に置かれていた。その口からは、絶え間なく水が吐き出され、あっけない放物線の先で、水鉢に溜まった水をバシャバシャと鳴らしている。ちょうど人間が膝を抱えたほどの大きさのその置物は、照りつける太陽になすすべもなく、路面に黒い影を落とすばかりだった。
はい、随分印象が違いますよね。
こうやって、同じ対象を別のシーンの描写として表現してみる練習をしておけば、自分がどのモードで情景描写をするのか、瞬時に判断して対応できるようになるはずです。
…え?写真を用意した方が早い?
そうかもしれませんね(笑)
いずれにしても、私もプロではありませんし、表現に正解は存在しません。
GMの皆さんが、それぞれの自分らしい表現を見つけ出していくために、こうした練習はきっと力になるはずです。ぜひお試しください。