読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

TRPGをやりたい!

TRPGのトビラをひらこう!

【ホラー本読み漁り】祝山 加門七海

読書記録 シナリオライティング シナリオソース

 

祝山(いわいやま) (光文社文庫)

祝山(いわいやま) (光文社文庫)

 

 

読みました。

体験談の形式をとった怪談話、という感じの本です。

分量もそう多くなく、2時間程度で読み終わることができます。

これからの夏の季節、肌にひんやりと伝わる恐怖を感じたい方にはぴったりの一冊です。

 

この本で扱われているのは、表題にもなっている『祝山』にあるという有名な心霊スポットに肝試しに訪れた人々…に相談を持ちかけられたホラー作家の体験談です。

 

実話を基にしているような語りが本書の末に書かれていたので、演出上の誇張を意識しつつ、体験談として読むのが読者の礼儀でしょう。

 

さて、この本を読んだのは、他でもない、ホラー演出の勉強のためです。

ホラーを演出する際には、幾つかの水準が用いられます。

 

第一には、物語構造のレベルでの『境界性』の問題です。これについては、以前扱いました。

trpg.hatenablog.com

 本書もこの例に漏れず、『祝山』という土地を「あちら」、それ以外の土地を「こちら」と特徴付け、「こちら」の世界に少しずつ確実に浸潤してくる「あちら」の理を演出することで、大半の恐怖が構成されています。

そもそも、物語の冒頭からして、夏のお盆に「地獄の釜の蓋が開く」という話を持ってきています。この話は、物語の後半の演出で再度参照され、物語全体のクライマックスを強調する効果を果たしてくれてもいます。

 

 

第二の水準は、この世ならざるものに対する形容表現の水準です。

本書の中では、この世ならざるものが具体的な姿を伴って登場することはありません。それは常に、主人公たちに迫ってくる「気配」のような形をとります。それゆえ、その存在を描写するのは難しく、適切に「恐ろしいもの」として伝えるために工夫が凝らされています。

まず、その臭いですが、やはり「沼」が使われます。「沼」は乾いた地面でも、全く水の中でもない場所という意味で、それ自体が恐怖演出に用いられる「境界性恐怖語(仮称)」の一つです。同時に、水が淀んで腐った臭いは、人間に生理的不快感を催させるので、その臭いを想像させることは、不愉快さを伝達する上での常套手段と言えます。

次に、その「存在」を伝える手段ですが、今回は「音」が使われている印象を受けました。ただ臭いがするだけでは、別の原因を考えることも可能ですが、「音」というのは、どういうわけか他ならぬ実在の証明として利用されます。おそらく、「臭い」を伴う空気は「存在しないもの」に属するのでしょうが、物質との接触によってしか発生しない「音」は、他ならぬ実在性の証拠として利用できるのでしょう。これは覚えておいて損なさそうです。

さらに、視覚的情報も多用されています。存在それ自体が登場しないにもかかわらず、どうやって「視覚化」するのか?と疑問に思うでしょうが、それは私たちが現実の世界でよく利用している方法をとります。つまり、心霊写真に代表される「現象」としての視覚化です。「映像の歪み」や「画像にかかる霧」、「人格の異常」、「機械の動作不良」など、「目に見える」微細な要素を結びあわせることで、「不在の輪郭」を作り出します。

拍子抜けする比喩を用いれば、ドーナツの輪を作ることで、本来存在しない「ドーナツの穴」を演出するわけです。それは実態によって囲まれた輪郭線でしかないのですが、私たちはそこに「何かがある(いる)」と考えてしまうように仕向けられます。

 

 

第三の水準は、狂気のあり方を伝える表現技法です。

先に「人格の異常」と言及しましたが、当該の人物がなぜ「狂っている」と言い得るのか、という点は極めて重要であり、表現上困難が伴われます。もしも読者がその人物の異常を「狂気」と認めなければ、全く恐怖を伝えることができないからです。

この点では、ややこの小説は弱かったかな、という印象を受けます。作中でも主人公が述べているように、単にストレスで自制が効かなくなったとか説明されてもいい程度の狂気しか演出していません(実話を基にしているなら、名誉の問題もあるのだろうか)。

しかし、狂気の渦中にある友人からのメールの文面は、非常によい狂気を描けていたと感じました。支離滅裂ながらも一点にだけは妙に固執する偏執狂的性質がよく出ていて、ぞっとさせられました。

 

こう分析的に書くと、まるで怖くなかったように見えるかもしれませんが、それは全く異なります。

読んでいる間、何度も鳥肌の立つ恐怖を感じました。また、背後でなる音にも敏感になってしまって、自分が恐怖の世界に引き込まれているのがよくわかりました。

 

そういった点から、冒頭で書いたように、夏にぴったりのホラー小説だと感じています。

皆さんも是非どうぞ。

 

祝山(いわいやま) (光文社文庫)

祝山(いわいやま) (光文社文庫)

 

 

 

…と、ここまでなら書評ブログになっちゃうのですが、私はTRPGに全部繋げますので、これをクトゥルフ神話TRPGのシナリオに落とし込もうと思います。そちらも書き終わったらいつものサイトで公開します。

クトゥルフ化する以上、何かもっとおぞましい恐怖を『祝山』にしのばせたいものです。

 

 

 

追記

trpg.hatenablog.com

『肝試しのあと』というタイトルで、シナリオ公開しました。

クトゥルフ神話TRPG - TRPG神々の黄昏

 

『肝試しのあと』リプレイを公開しました

trpg.hatenablog.com