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電源・非電源ゲーム全般の紹介・考察ブログ

【SWノベル】ぬいぐるみの人:04 トラウマ再び

「魔香草の補充が二つ、か。」

大声では言えないが、明らかにシケている。あの名高いバータム商会直々の任務で、支給品がこの程度じゃあ、不満を漏らす冒険者も出るだろう。よほど商売がうまく行っていないのか、それとも商売人らしい買い叩き根性か。

「それでもないよりはましだろう。俺がコンジャラーだと誤解されたおかげで二つもらえたんだ、感謝しろよ。」

複雑な気分だ。感謝すればいいのか、たしなめればいいのか。

「どうも。ボブソンは何もいらなかったんですか?」

「俺か?俺なら、ちょっと演出のために、〈ぬいぐるみ〉に包帯を巻いてもらった。どうだ。」

ボブソンが嬉しそうに〈ぬいぐるみ〉を見せる。

他に負傷者もいただろうに、これをお願いされた薬師はなんと思って応じたのだろうか。まったく可哀想になる。

「次の命令は何でしたっけ?」

触れないことに決めた〈ぬいぐるみ〉を無視して尋ねる。

「ああ、俺たちは残党狩りの方だな。ついてねぇ。街道警備の方が楽だっただろうにな。」

「でも所詮は残党。ボブソンの手にかかればどうということもないよ。」

 

そして実際、どうということもなかった。弾丸を幾つか消費する間に、ボブソンが次々に蛮族を蹴り倒し、力の差を見せつけていた。これほどの戦果をあげた冒険者は、ゴートを除けば他にないのではないだろうか。これで「〈ぬいぐるみ〉のボブソン」の名がこの地域に轟いてしまうのかと思うと、ため息が出そうになる。俺について、「〈ぬいぐるみ〉のボブソン」が抱えるぬいぐるみコレクションの一つ、みたいな認識が広まってしまわないだろうか。そうなったら、また一人で活動することになるのかもしれない。さすがに「ボブソンの〈ぬいぐるみ〉」なんていう二つ名だけはごめんだ。

 

・・・

 

「また魔香草が二つか。」

「お前は弾丸も補給してもらってるんだろ?文句は言うなよ。」

ボブソンが常識人みたいなことを言う。

「いや、銃を撃つっていうのは、結構マナを消費するんだ。俺たちマギテックは、魔力がなければまったく戦えない。杖で殴ったりできる魔法使いたちとは違うんだよ。」

マナを使わない弓矢で戦えるシューターたちとも違って、マギテックは魔力が必要不可欠な戦闘スタイルだ。そのことに少しでも配慮してくれれば、こんなシケた補給品だけでは戦闘に支障がでることがわかるはずなのだが。

「それなら、クロスボウでも持てよ。撃てるんだろ?」

〈ぬいぐるみ〉を抱えた爺さんに正論を言われてしまった。しかし、銃を新調した今、それを買う金銭的余裕がない。

「今度買っておくよ。」

しぶしぶ返事をすると、買う気がないことを聞き取ったのか、ボブソンが付け加えた。

「冒険者たるもの、どんな状況にも対応できねばならん。魔力が使えないときのためにクロスボウを携帯し、眠れないときのために〈ぬいぐるみ〉を携行するべきなんだよ。わかるか、ラビット?」

 

・・・わかんねぇよ。

 

 

著しい戦果をあげた俺たち二人(と1体)は、第三次作戦で中核舞台に近いエリアでの浸透作戦を命じられた。これが俺たち二人にとって、トラウマの再来を招くとは、全く予想していなかった。

 

草原の中を進むと、敵の部隊が前方に確認できた。

「ゴブリンだな。」

ボブソンに手で合図して、先に狙撃を試みる。意識を集中して、引き金を絞る。圧縮された魔力が炸裂して、弾丸がゴブリンの腕に突き刺さる。そこから弾丸に込められた魔力が噴出し、ゴブリンの腕を弾き飛ばす。

 

「よくやった、俺が前で止める。狙撃を続けてくれ。」

〈ぬいぐるみ〉を持ったボブソンが進み出て、こちらに向かって走りこんでくるゴブリン達を待ち構える。ゴブリンは三体。もう一発撃てば、一体は止められるだろう。

「そのまま直進しろよ・・・。」

再びアイアンサイトでゴブリンを狙う。腕に当たった弾丸は、すでに脇腹をも傷つけていたようだ。次の一撃で仕留められる。

 

ズバァアン!

ゴブリンが一匹倒れる。ボルトを操作して、素早く銃を構え、再び狙撃の態勢をとる。そのときだった。

 

草原の向こう、小さな起伏の影から、見覚えのある浅黒い肌の巨体が姿を現す。

その蛮族は、片腕に大斧を軽々と持ち、強烈な殺気を放ちながら、こちらに突っ込んでくる。

 

間違いない。

 

「レッサーオーガだ!」「レッサーオーガだ!」

 

二人が同時に叫んだ。

 

「ボブソン!やばいぞ!あんなやつ二人じゃ抑えられない!」

「んなことわかってんだよ!」

ボブソンが完全に平常心を失って大声で応じる。

山賊討伐に赴いた際、一撃でボブソンに瀕死の重傷を負わせた敵。それがレッサーオーガだった。あれからまだほんの2週間しか経っていない。いくら回復魔法で傷が癒せるといっても、あの恐怖を拭い去ることはできない。

なにより、あの時この巨体をほとんど一人で仕留めたナイトメアの冒険者キリトも、霧のような魔法で攻撃を助けたアモも、この場にはいないのだ。

(死ぬ!逃げる方法を考えないと!)

全力で知恵を振り絞らなければ。まずは残弾で敵の足を止めることを試みる。それでダメなら、助けを呼ぶか、新しく覚えた魔法でなんとかする。『なんとか』ってなんだよ。ええと、『なんとか』できそうな方法は・・・。

 

「ボブソン、下がって!」

ダメもとで、新しい魔法を詠唱する。マギスフィアが反応して、銃の先端に小さな金属塊が作り出される。

「当たってくれればいいけどさ!ショック・ボム!」

駆け寄ってきた三匹の蛮族めがけて、金属塊を射出する。小さな爆発とともに、敵の足元に稲光が走る。

「逃げるよ!ボブソン!」

初めて使う魔法が成功したことに安堵しつつも、すぐに後ろを振り返って走ろうとする。しかし、ボブソンの右腕が、ラビットの方を抑えた。

「あの状態なら、俺たちでも殺れるんじゃないか?」

ボブソンは不敵な笑みを浮かべる。

まさか、この間にボブソンも成長したと言うのだろうか?この自信に満ちた表情を信頼してもいいのだろうか。

「言ったからには、やってよね。」

ラビットは即座に弾丸のリロードを始める。ショック・ボムの効果時間が短いからには、もう一度あれを打つ必要が生じるはずだ。

 

「おう、俺の本気を見せてやるよ。」

ボブソンは〈ぬいぐるみ〉を抱えたまま、歩み出る。

 

 

その、30秒後。

 

 

「グオォォォッ!」

この世のものとは思えぬ叫び声を背に受けながら、潰走するボブソンの姿があった。その左腕には〈ぬいぐるみ〉、右腕にはラビットが後ろ向きに抱えられている。

「無理、無理、無理!」

ゴブリンを葬り、レッサーオーガに面したボブソンは、敵の一撃をかわすと、すぐに反転して、銃を構えていたラビットをそのまま抱き上げて逃走を始めたのだった。ラビットが、ボブソンの腕の中から、ようやく二つ目のショック・ボムを作って敵に投げつけ、二人は事なきを得たのである。

 

 

つづく