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【うろ覚えSWノベル】山賊退治ミッション:7(護衛)

日が沈んでしまった平原は、また一つ違った姿をキリトに見せてくれた。ルテティアと同じように空に光る星々と、白く光る月が、遠くに見える山々を曖昧に浮かび上がらせていた。その広大な薄暗さこそ、キリトがこれまでに見たことのない、異境としての壁外を体現していた。

後半の警備を担うことになったキリトは、荷馬車で先に一眠りした。見知らぬ土地で、馬車に揺られながらとる睡眠はそう気持ちのいいものではなかったが、言い知れぬ興奮が彼を包んでいた。彼はまさに、憧れた冒険の最中に身を置いていたのだから。

 

先に警護を終えたあもちんぽとボブソンが交代を告げに来た。ラビットとカイトが先頭の馬車を、キリトは最後尾の馬車を守ることになり、キリトは馬車の荷台に腰掛けて、左右の様子を伺い続けた。

キリトたちを起こしに来たボブソンの両手のセスタスには、間違い無く獣の血が付いていた。きっと野生動物が攻撃してきたに違いない。「つまり俺がこのレイピアで敵を突くときが迫っているということだ。」キリトは戦いの予感に笑みをこぼしていた。

 

ふと、視界の隅の方で、遠くから何かが駆け寄ってくるのが見えた。すぐにうなり声も聞こえてくる。キリトは荷台の上に立ち上がって、声を上げた。

「進行方向に対し右後方!ウルフが三匹だ!俺が仕留めるぞ!」

隊商全体に緊張が走る。ラビットとカイトも急いで戦闘体制に入ろうと、敵の方向を確認する。その時すでにキリトは馬車から飛び降りていた。キリトの頭にツノが現れ、髪がわずかに逆立つ。すでに引き抜かれた双剣を持つ両手に、力が湧き上がるような感覚を得、キリトは駆け寄るウルフたちより早く、地面を滑るように走った。

ウルフたちがキリトの姿に気付いて臨戦態勢をとったとき、その頭上がラビットの魔法によって照らされた。

「タビット野郎が、余計な援護をしてくれてッ!」

キリトは明かりに照らされたウルフの喉に左手のレイピアを突き立て、貫く。ナイトメアの本性を現し、戦闘に特化した今のキリトにとって、両手のレイピアはあまりに軽すぎるほどだった。あまりの勢いにウルフの体は宙に浮く。ウルフは断末魔の悲鳴をあげる時間すら与えられない。立て続けにキリトは全身の体重をのせて、飛びかかるように右手のレイピアを心臓めがけ突き出す。

「ひとつ!」

全体重を乗せた刺突の勢いそのままに、他のウルフたちの後ろに着地する。すかさず振り向くウルフたちの眼前には、彼らの仲間だったものが、無力に横たわった。

しかし、知性の優れない獣たちに、それが恐怖を引き起こすことはない。牙をむき出しにして、二匹のウルフがほとんど同時にキリトに襲いかかる。

「遅いねぇ!」

キリトは一匹目の飛びつきをバックステップして躱す。そこに続く二匹目の飛びつき。しかしキリトにとって、ウルフたちの戦闘能力は赤子同然だった。キリトは反射的に低くかがみ、飛びかかるウルフの懐に潜り込むと、そのまま敵の勢いを生かして後ろに放り投げる。自分がすぐに飛び込める体勢にあることを直感で理解したキリトは、レイピアを逆手に持ち替えながら、目の前のウルフに飛びかかる。

「ふたつ!」

脳天から顎までを、二本のレイピアが貫いた。ウルフの全身が小さな痙攣を引き起こしたように、奇妙な挙動をしたかと思うと、すぐにそれはただの肉の塊に変わった。レイピアを引き抜いたキリトの背後で体勢を整えた最後の一匹は、ここに及んで、自分が敵にしていたこの男の恐ろしさを理解したようだった。ウルフは二つほどうなり声をあげて逡巡したが、すぐに向きを変えて逃げ去っていった。

 

「なんて強さだ・・・。これが、冒険者ってやつなのか・・・。」

一瞬の攻勢に出遅れ、ようやく駆け寄ってきたカイトがショートソードを鞘に収めることすら忘れて、キリトの姿を驚愕とともに見つめていた。

 

月明かりの下で、返り血を拭うツノ付きの男。幻想的ですらあるその光景に、カイトは畏怖すら覚えていた。

 

異貌のナイトメア。人間から生まれた、人間ならざるもの。

それが、キリトの本当の姿だった。

 

 

つづく